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本稿は、二〇二二年度に続き\n注1\n、国士舘大学所蔵の室町末期の書写とされる『伊勢物語』の写本について、本学・中\n古ゼミの大学院生、四年生が翻刻を行ったものに、学習院大学蔵本\n注2\nおよび、千歳文庫蔵本\n注3\nとの異同を確認し、国士舘\n大学蔵本の位置づけを確かめる試みである。\n 書誌情報については、前稿\n注4\nに記載した通りである。各ページの行数については、本稿の対象範囲(五丁裏から十丁\n裏まで)では、一ページにつき十行で、前稿で扱った範囲と同じであった。\n 以下、本稿(二〇二三年度)では、六段の途中から十六段の途中まで、すなわち、前述したように五丁裏から十丁\n裏までを研究対象とした。以下、「二、翻刻」「三、考察」の順に検討を加える。\n- 88 -\n 二、翻刻\n《凡例》\n*各写本の略記号は以下の通りである。\n【国】:国士舘大学蔵本\n【学】:学習院大学蔵本\n【千】:千歳文庫蔵本\n*【国】の本文を、丁・行そのままに翻刻した。算用数字は行数を表す。\n*【国】と【学】や【千】との間に異同がある場合は、【国】に傍線を施し、すぐ左側に【学】、その次の行に【千】\nの本文を示した。なお、【国】や【学】に文字が記されているが、【千】に何も記されていない場合は「×」で示した。\n*第三節「考察」で取り上げる例については、右側に「*」をつけ、その後に第三節で掲載するさいの番号を付した。\n《翻刻・本文》\n五丁裏\n1 けりそれをかくおにとはいふなりけりまたいとわかう\n- 89 -\n2 てきさきのたゝにおはしける時とや\n3\n〔七段〕\n むかし男 有 けり京にありわひてあつまにいき\n 七 おとこあり\n × おとこあり\n4 け\n*(4)①\nり 伊勢おはりのあはひのうみつらをゆくになみ\n けるにいせ 浪\n けるに伊勢 なみ\n5 いとしろくたつを見て\n く\n う\n6 いとゝ敷 過行 かたの恋 しきに浦 山 敷 もかへるなみかな\n 後撰 しくすきゆくかた こひ うら山 しく かな\n × しくすきゆく方 こひ うらやましく 哉\n7 となんよめりける\n む\n む\n- 90 -\n8\n〔八段〕\n むかしおとこありけり京やすみうかりけんあつま\n 八 有 ん\n × あり む\n9 のかたにゆきてすみ所もとむとてともとする人\n 方\n かた\n10\n ひとりふたりしてゆきけりしなのゝ国 あさまのたけ\n くに\n くに\n六丁表\n1 にけふりのたつを見て\n2 しなのなるあさまのたけに立 煙 遠近 人 のみやはとかめぬ\n 古今 たつ煙 をちこち人 見\n × たつけふりをちこちひと 見\n- 91 -\n3\n〔九段〕\n むかしおとこ有 けりそのおとこ身をえうなき物 \n 九 あり 物\n × あり もの\n4 に思ひなして京にはあらしあつまのかたにすむ\n × 方\n × 方\n5 へき国 もとめにとてゆきけりもとよりともと\n くに 友\n くに とも\n6 する人ひとりふたりしていきけりみちしれる人\n7 もなくてまとひいきけりみかはの国 やつはしと\n くに\n くに\n8 いふ所にいたりぬそこをやつはしといひけるは水\n- 92 -\n9 行 川のくもてなれは橋 をやつわたせるにより\n ゆく河 はし\n ゆく河 はし\n10\n てなんやつはしといひけるその澤\n*(3)①\n のほとり\n む さは\n む さと\n六丁裏\n1 の木のかけにおりゐてかれいひくひけりその澤 に\n さは\n さは\n2 かきつはたいとおもしろくさきたりそれを見て\n 見て\n お\nみてある人のいはくかきつはたといふいつもしを\nもしろくさきたりそれを××\n3 ある人のいはくかきつはたといふいつもしをくの\n ある人のいはくかきつはたといふいつもしを\n ××××××××××××××××××××\n- 93 -\n4 かみにすへてたひの心をよめといひけれはよめる\n5 から衣きつゝなれにしつましあれははるくきぬる旅 をしそ思ふ\n 古今 たひ ×\n × たひ ×\n6 とよめりけれはみな人 かれいひのうへに涙 おとして\n 人 なみた\n ひと なみた\n7 ほとひにけりゆきくてするかの国 にいたりぬう\n くにゝ\n くにゝ\n8 つの山にいたりてわかいらむとする道 はいとくらうほ\n みち\n みち\n9 そきにつたかえてはしけりもの心 ほそくてすゝ\n 物 心 ×\n ものこゝろ ×\n- 94 -\n10\n ろなるめをみることゝおもふにす行者\n*(4)②\nにあひたりかゝる\n 見 思 ×\n 見 おも ×\n七丁表\n1 道 はいかてかいまするといふをみれは見し人 なりけり\n みち 見 ひと\n みち 見 人\n2 京にその人の\n*(3)②\n もとにとてふみかきてつく\n 御\n 御\n3 するかなるうつの山辺のうつゝにも夢 にも人 にあはぬ成 けり\n新古今 へ ゆめ 人 なり\n × 辺 ゆめ ひと なり\n4 ふしの山をみれはさ月のつこもりに雪いとしろうふ\n 見\n 見\n- 95 -\n5 れり\n6 時しらぬ山はふしのねいつとてかかのこまたらに雪 のふるらん\n新古今 ゆき ん\n× 雪 む\n7 その山はこゝにたとへはひえの山をはたちはかりかさね\n はかり\n 許\n8 あけたらんほとしてなりはしほし\n*(1)①\nりのやうになん有 \n ん しほしり んあり\n む しほしり むあり\n※【学】「しほしり」の左側に二行にわたって以下の傍記がある。\n 或説云塩尻壺塩といふ物あり其尻似此山此語之習故\n 好卑詞寂蓮殊信用此説或本はしりほしの\n- 96 -\n9 け\n*(1)②\nるなをゆきくてむさしの国 としもつふさの\n 猶 武蔵 くに\n なを むさし くに\n※【学】「ける」の下に割注として以下の「先人~ありなん」までの二行、本文の左に「往年~云々」の傍記が一\n行で記されている。\n 先人命縦雖為塩事凡卑也\n 不可用之心えすとてありなん\n 往年有尋問人答慥不知由云々\n10\n くにとの中にいとおほきなる河ありそれをす\n七丁裏\n1 みた川といふその河のほとりにむれゐて思 ひやれはかき\n 河 おも\n 河 おも\n- 97 -\n2 りなくとをくもきにけるかなとわひあへるに\n3 渡守 はや舟 に\n*(4)③\nのれ日もくれぬといふにのりてわた\n わたしもり ふね\n わたしもり ふね×\n4 らむとするにみな人 ものわひしくて京におもふ\n 人 物 思\n ひともの おも\n5 人なきにしもあらすさるおりしもしろき鳥 の\n とり\n とり\n6 はしと足 とあかきしきのおほきさなる水 のうへに\n あし みつ\n あし 水\n7 あそひつゝいをゝくふ京には見えぬ鳥 なれはみな\n とり\n とり\n- 98 -\n8 人見しらすわたしもりにとひけれはこれなんみ\n ん宮\n む宮\n9 やことりといふをきゝて\n10\n 名にしおはゝいさことゝはん宮こ鳥 わかおもふ人は有 やなしやと\n 古今 事と む 鳥 あり\n × ことゝ む とり あり\n八丁表\n1 とよめりけれは舟 こそりてなきにけり\n 舟\n ゝ ふね\n2\n〔十段〕\n むかし男 むさしのくにまてまとひありきけりさ\n 十 おとこ武蔵\n × おとこむさし\n- 99 -\n3 てそのくにゝある女をよはひけりちゝはこと人にあは\n4 せんといひけるをはゝなんあてなる人に心つけたりける\n む ん\n む む\n5 ちゝはなほ人にてはゝなん藤 はらなりけるさてなん\n お んふち ん\n お むふち む\n6 あてなる人にと思 ひけるこのむこかねによみて\n 思\n おも\n7 をこせたりけるすむ所 なんいるまのこほりみよし\n 所 む\n ところ む\n8 のゝさとなりける\n- 100 -\n9 みよしのゝたのむのかりもひたふるに君 かゝたにそよるとなくなる\n きみ\n きみ\n10\n むこかねかへし\n 返\n かへ\n八丁裏\n1 我 かたによるとなくなるみよしのゝたのむの雁 をいつか忘 ん\n わか方 の かり わすれん\n わか方 野 かり わすれむ\n2 となん人のくにゝてもなをかゝる事 なんやまさりける\n 猶 こと\n 猶 事\n3\n〔十一段〕\n むかし男あつまへ行 けるにともたちともにみち\n 十一昔おとこ ゆき 友\n × 昔おとこ ゆき とも\n- 101 -\n4 よりいひをこせける\n5 わするなよ程 は雲 ゐに成 ぬとも空 行 月のめくり逢 まて\n 拾遺 ほと 雲 なり そらゆく あふ\n × ほと くも なり そら行 あふ\n6\n〔十二段〕\n むかし男 有けり人のむすめ\n*(4)④\n ぬすみてむさし野へ\n 十二 おとこ を むさしの\n × おとこ を 武蔵野\n7 ゐてゆくほとにぬす人なりけれはくにのかみに\n8 からめられ\n*(4)⑤\n けり女をは草 むらの中 にをきて\n に くさ なか\n に くさ 中\n9 にけにけりみちくる人 の\n*(4)⑥\nこの野はぬす人あ\n ひと× 野\n 人 × ゝ\n- 102 -\n10\n なりとて火つけんとす女わひて\n む\n む\n九丁表\n1 \n*(1)③\n 武蔵 のはけふはなやきそ若 草 のつまこもれり我 もこもれり\n 古\nカスカノ\n今 むさし わかくさ われ\n むさし わかくさの 我\n2 とよみけるをきゝて女をはとりてともにゐてい\n3 にけり\n4\n〔十三段〕\n むかしむさしなる男 京なる女のもとにきこゆれ\n 十三昔武蔵 おとこ\n × 昔武蔵 おとこ\n- 103 -\n5 はゝつかしきこえねはくるしとかきてうはかきに\n6 むさしあふみとかきてをこせてのち\n*(4)⑦\nはをともせす\n ×\n ×\n7 なりにけれは京より女\n8 むさしあふみさすかにかけてたのむにはとはぬもつらしとふもうるさし\n9 とあるを見てなむたへかたき心ちしける\n注5\n 地\n 地\n10\n とへはいふとはねはうらむゝさしあふみかゝるおりにや人 はしぬらん\n ゝ ひと ん\n む 人 む\n- 104 -\n九丁裏\n1\n〔十四段〕\n むかし男 みちのくにゝすゝろにゆきいたりにけり\n 十四 おとこ\n × おとこ\n2 そこなる女京の人 はめつらかにやおほえけんせちに\n ひと ん\n 人 む\n3 おもへるこゝろなむ有 けるさてかの女\n 心 あり\n 心 あり\n4 中 くに恋 にしなすはく\n*(1)④\nはこにそなるへかりける玉 のをはかり\n 入万葉中 恋 く\n桑故 蚕也\nはこ たま\n × なか こひ くはこ たま\n5 うたさへそひなひたりけるさすかにあはれとやおもひ\n- 105 -\n6 けむいきてねにけり夜ふかくいてにけれは女\n7 夜もあけはきつにはめな\n*(1)⑤\nてく\n*(1)⑥\nたかけのまたきになきてせなをやりつる\n き\n東 国の習家ヲクタト云\nつにはめなてく家鶏也たかけ\n きつにはめなてくたかけ\n8 といへるに男 京へなむまかるとて\n おとこ\n おとこ\n9 くりはらのあね\n*(3)③\nはの松の人ならは都 のつとにいさといはまし\n*(4)⑧\n \n は\nわ一本\n れ\nね\n みやこ を\n は れ 宮 こ を\n10\n といへりけれはよろこほひて思 ひけらしとそいひをり\n おも\n おも\n- 106 -\n十丁表\n1 ける\n2\n〔十五段〕\n むかしみちのくにゝ\n*(4)⑨\n なてうことなき人のめにかよひける\n 十五むかし て\n × 昔 て\n3 にあやしうさやうにてあるへき女ともあらす見えけれは\n4 忍 山しのひてかよふ路 もかな人 のこゝろのおくもみるへく\n しのふ 道 哉 人 心 見\n 忍 みち かなひと 心 見\n5 女かきりなくめてたしとおもへとさるさかなきえひすこゝ\n こゝ\n 心\n- 107 -\n6 ろをみてはいかゝはせむは\n ろ 見\n 見\n7\n〔十六段〕\n むかしきのありつねといふ人有けりみよのみかとにつ\n 十六 有 世\n × あり よ\n8 かうまつりて時にあひけれと \n*(4)⑩\n 世かはり時うつり\n*(4)⑪\n けれは\n のちは に\n のちは に\n9 よのつねの こと あら\n*(4)⑫\nす人からは心うつくしうあて\n 世のつねの人のことも く\n 世のつねの人のことも う\n10\n はかなることをこのみてこと\n*(4)⑬\nに人にもにすまつしく\n ×\n に\n- 108 -\n十丁裏\n1 へても猶むかしよかりし時の心なからよのつね\n むかし よ\n 昔 世\n2 のこともしらすとしころあひなれたる\n*(4)⑭\n やうくとこ\n あひなれたるめ\n あひなれたるめ\n3 はなれてつゐにあまになりてあねのさきたち\n4 てなりたる所 へゆくを男 まことにむつましき\n ところ おとこ\n ところ おとこ\n5 事 こそなかりけれいまはとゆくをいとあはれと思\n こと\n 事\n- 109 -\n6 けれとまつしけれはするわさもなかりけり思 ひ\n おも\n おも\n7 わひてねんころにあひかたらひけるともたちのも\n む\n む\n8 とにかうくいまはとてまかるをなにこともいさゝか\n9 なる事 もえせてつかはすことゝかきておくに\n こと\n こと\n10\n 手を折 てあひみしことをかそふれはとおといひつゝよつはへにけり\n ゝり 見 事\n ゝり 見 こと\n 三、考察\n 第二節において【国】【学】【千】の異同を確認してきた。その結果、表記においては違う点が多数見られるものの、\n- 110 -\n全体として大きな異同は少なかった。以下、表記と解釈などに関わる異同の順に確認する。なお、本稿では音便は異\n同として扱わなかった。\n まず、表記についての傾向としては、以下の[1][2]の二点が確認された。\n[1]仮名・漢字表記については、【国】は他の二本よりも漢字を使用する割合が多いが、【国】が仮名としていると\nころを【学】や【千】が漢字としているところもあるのは、前稿の範囲(二丁表から五丁表)までと同じであった。\n[2]【国】は前稿の範囲(二丁表から五丁表)と同様に、和歌の表記に関しては、ほぼ一行におさめていた。\n 【学】は和歌が二行にわたって(一行目に上の句、二行目に下の句)書かれている。また、一行目と二行目の間、\n和歌よりも高い位置に「新古今」「古今」などの注記がある箇所がある点も前稿と同じである。ただし、九丁裏7\n行目「夜もあけは……」の歌については、三行にわたっている。\n 【千】は前稿の範囲(二丁表から五丁表)と同様に和歌が二行にわたっていた。また、前稿と同様に一文字空け\nて地の文に続く例もあり、七丁裏\n10\n行目「名にしおはゝ……」、九丁表1行目「武蔵のは……」、九丁裏9行目「く\nりはらの……」が該当する。なお、本稿の範囲では、一文字空けず直接に地の文につながっているものとして、八\n丁裏1行目「我かたに……」九丁表8行目「むさしあふみ……」があった。また、六丁裏2~3行目の【国】【学】\n「見てある人のいはくかきつはたといふいつもし」は、【千】は本文のサイズよりも小さい字で傍記の形で記入され\nていた。\n- 111 -\n 次に、解釈などに関わる異同を、前稿と同様に以下の(1)~(4)に分類した。\n(1)【国】【千】にはないが【学】のみにある注記\n 【学】には本文の上に段数が注記され、以下の①~⑥については、本文の左右や下に注がつけられている。しかし、\nこれらは【国】【千】にはない。\n①七丁表8行目:「しほしり」の左側に二行にわたって傍記がある。\n 或説云塩尻壺塩といふ物あり其尻似此山此語之習故\n 好卑詞寂蓮殊信用此説或本はしりほしの\n②七丁表9行目:「ける」の下に割注として以下の「先人~ありなん」までの二行、本文の左に「往年~云々」の傍\n記が一行で記されている。\n 先人命縦雖為塩事凡卑也\n 不可用之心えすとてありなん\n 往年有尋問人答慥不知由云々\n③九丁表1行目:「古今」の左側に「カスカノ」と記されている。\n④九丁裏4行目:「くはこ」の右側に「桑子 蚕也」の傍記がある。\n⑤九丁裏7行目:「きつにはめなて」の右側に「東国の習家ヲクタト云」の傍記がある。\n⑥九丁裏7行目:「くたかけ」の左側に「家鶏也」の傍記がある。\n- 112 -\n 前稿の範囲で(1)の項目に分類されたのは人物についての注のみであったが、本稿の範囲ではすべて人物以外に\nついての注であった。\n(2)文の終止など文法にかかわる例。\n 前稿の範囲には三例あったが、本稿の範囲にはなかった。\n(3)意味が変わる例\n 意味の変わるものとしては、以下の三例があげられる。\n①六丁表\n10\n行目:【国】【学】「澤/さは」、【千】「さと」となっている。【千】は「里のほとり」で「里の近く」と解\n釈できそうではあるが、 次行の六丁裏1行目は【千】も「さは」になっており、【千】の誤字ではないかと考えら\nれる。\n②七丁表2行目:【国】「人のもとに」、【学】【千】「人の御もとに」となっている。どちらでも解釈は可能だが、【学】【千】\nは敬意が入っているので、ここで手紙を送っている相手は高貴な人、例えば業平の恋の相手である藤原高子などの\n女性が視野に入ってくる表現となる。\n③九丁裏9行目:【国】「あねは」、【学】「あれ\nね\nは」、【千】「あれは」となっている。【国】と【学】の傍記の「あねは」\nは「姉歯」で解釈できるが、「あれは」では意味が通らない。\n- 113 -\n この三例のうち、②をのぞく二例は、いずれも【国】と【学】(傍記の例を含む)が【千】よりもすぐれた本文で\nあると言える。\n(4)その他の例\n 異同は認められるが、解釈がそれほど変わらない、あるいはどちらでも解釈が可能な例としては、以下の①~⑭の\n一四例があげられる。\n①五丁裏4行目:【国】「けり」で文が終止するところ、【学】【千】「けるに」となり、次につながっている。解釈と\nしては【国】「東国に行った。」、【学】【千】「東国に行ったところ、」でどちらでも解釈は可能である。\n②六丁裏\n10\n行目:【国】「す行者にあひたり」は【学】【千】「す行者あひたり」となっている。どちらでも解釈は可能\nだが、【国】は助詞「に」がある分、格関係がわかりやすくなっている。\n③七丁裏3行目:【国】【学】「舟に/ふねに」、【千】「ふね」となっている。どちらでも解釈は可能だが、【国】【学】は(4)\n②と同様に助詞「に」がある分、格関係がわかりやすくなっている。\n④八丁裏6行目:【国】「人のむすめぬすみて」、【学】【千】「人のむすめをぬすみて」で、どちらでも解釈は可能であるが、\n【学】【千】は助詞「を」がある分、格関係がわかりやすくなっている。(4)②③では【国】のほうに助詞があったが、\nここは逆に【学】【千】に助詞がある。 \n⑤八丁裏8行目:【国】「からめられにけり」、【学】【千】「からめられけり」となっている。それぞれの解釈は【国】「か\n- 114 -\nらめられてしまった」、【学】【千】「からめられた」で完了の助動詞「ぬ」の有無による解釈の違いはあるが、意味\nが逆になるなど大きな違いはない。\n⑥八丁裏9行目:【国】「人の」、【学】【千】「人/ひと」となっている。どちらでも解釈は可能だが、【国】は助詞「の」\nがある分、格関係がわかりやすくなっている。これは(4)②③と同じである。\n⑦九丁表6行目:【国】「のちは」、【学】【千】「のち」となっているが、どちらでも意味は変わらない。この例も(4)\n②③⑥と同様に【国】には助詞があるが、他の本には助詞がないものがある例である。\n⑧九丁裏9行目:【国】「いはまし」、【学】【千】「いはましを」となっている。詠嘆・感動の終助詞「を」の有無によ\nる意味の違いはあるが、意味が逆になるなど大きな違いはない。\n⑨十丁表2行目:【国】「くにゝ」、【学】【千】「くにゝて」となっている。格助詞「に」と格助詞「にて」の違いはあ\nるが、いずれにしても、ここでは場所を意味しており、意味に違いはない。\n⑩十丁表8行目:【国】「世かはり」、【学】【千】「のちは世かはり」となっている。それぞれの解釈は【国】「世が変わり」\n【学】【千】「(その)後は世が変わり」となり、どちらでも解釈は可能である。\n⑪十丁表8行目:【国】「うつりけれは」、【学】【千】「うつりにけれは」となっている。それぞれの解釈は【国】「移\nったので」、【学】【千】「移ってしまったので」である。(4)⑤と同様に、完了の助動詞「ぬ」の有無による解釈\nの違いはあるが、意味が逆になるなど大きな違いはない。\n⑫十丁表9行目:【国】「よのつねのことあらす」、【学】【千】「世のつねの人のこともあらす」となっている。解釈は\n【国】「世間一般のことはなく」、【学】【千】「世間一般の人のようでもなく」となる。どちらでも意味は通じ、意味\nが逆になるなど大きな違いはない。\n- 115 -\n⑬十丁表\n10\n行目:【国】【千】「ことに人にもにす」、【学】「こと人にもにす」となっている。解釈は【国】【千】「特に\n他の人にも似ず」、【学】「他の人とも似ていない」で、「ことに」と「こと」で解釈が違うということはあるが、ど\nちらでも他人とは違うという趣旨のことを言っている。\n⑭十丁裏2行目:【国】「あひなれたる」、【学】【千】「あひなれたるめ」となっている。「め」は「妻」のことだが、\nなくても後文から妻のことであるとわかり、【国】は「妻」が省略された形として読むことができる。\n 以上、和歌については[2]に記したように各本で表記が違っており、【学】【千】については細かい点では前稿の\n範囲と異なる表記の仕方もあった。また、(1)の【学】の特異な注記は本稿の範囲でも同様にあった。これらをの\nぞいた[1](3)(4)からわかる傾向としては、【国】が孤立して【学】【千】が一致していることが多いというこ\nとであった。ただし、(3)①(4)③のように【千】が孤立している例や、(4)⑬のように【学】が孤立している\n例もあった。これは前稿の範囲についての調査結果とほぼ同じである。\n なお、前稿の範囲では、【国】よりも【学】【千】のほうが文法的に正しい、あるいは文脈に則っている例として四\n例が確認されたが、本稿の調査範囲では、(3)①は【国】【学】のほうが【千】よりも、(3)③では【国】(【学】\nは傍記が【国】と一致)のほうが【千】よりも、前後の文脈から推定して妥当な本文になっているという結果となった。\n 四、むすび\n 本稿では、室町末期の書写とされる『伊勢物語』の国士舘大学蔵本の五丁裏から十丁裏の十一ページ分について翻\n刻を行い、学習院大学蔵本と千歳文庫蔵本との異同を確認してきた。\n- 116 -\n その結果、例外もあったが、前稿の範囲と同じく学習院大学蔵本と千歳文庫蔵本が一致し、国士舘大学蔵本が孤立\nしている例が多かった。ただし、前稿の範囲では国士舘大学蔵本が学習院大学蔵本と千歳文庫蔵本よりもすぐれてい\nる例はなかったが、本稿の範囲では国士舘大学蔵本と学習院大学蔵本が一致し、千歳文庫蔵本よりもすぐれた本文を\n有している例が二例あった。\n このように、概ね、前稿の範囲と同じ傾向ではあるが、異なる点もあることから、次年度以降、より範囲を広げて\n検討を続け、国士舘大学蔵本の位置づけをさらに明らかにしていく所存である。\n (注)\n(1)松野彩・二〇二二年度中古ゼミ四年生「国士舘大学蔵『伊勢物語』の研究 (一)」(国士舘大学国文学会編『國\n文學論輯』四四、二〇二三年三月)をさす。以下も同じ。調査対象は二丁表から五丁表である。\n(2)小林茂美校注『影印校注古典叢書6 伊勢物語』(新典社、一九七五年)によって本文を確認した。学習院大学\n蔵本は、現在、最善本とされ、小学館の新編日本古典文学全集の『伊勢物語』の底本となっている。\n(3)正徹奥書、蜷川智蘊筆。片桐洋一編『影印本シリーズ 伊勢物語』(新典社、二〇一六年改訂版)によって本文\nを確認した。\n(4)以下、本稿で「前稿」と言う場合は注1の論文をさす。\n(5)【国】「たる」に読めそうだが、近くにこの形で「ける」の例があるので「ける」とした。なお、この部分、【学】\n【千】は「ける」になっている。\n- 117 -\n※この写本を中古ゼミの学生と一緒に翻刻することになったのは、本学・中村一夫教授のすすめによる。ここに感謝\nの辞を述べる。\n※翻刻は五丁裏(宍倉舞)、六丁表(北川瑶)、六丁裏(武田優衣)、七丁表(山中澄玲)、七丁裏(中村桜)、八丁表\n(照内美海)、八丁裏(伊福くりあ)、九丁表(川崎蓮也)、九丁裏~十丁裏(鈴木健太朗)が担当し、松野彩が修正\nを施した。なお、九段(八丁表一行目)までは学内研究会での中村教授による翻刻を参照した。"}]}, "item_30001_bibliographic_information17": {"attribute_name": "書誌情報", "attribute_value_mlt": [{"bibliographicIssueDates": {"bibliographicIssueDate": "2024-03-20", "bibliographicIssueDateType": "Issued"}, "bibliographicPageEnd": "117", "bibliographicPageStart": "87", "bibliographicVolumeNumber": "45", 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名前 / ファイル | ライセンス | アクション |
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本文 (287 KB)
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Item type | 雑誌記事(1) | |||||||||||||||
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公開日 | 2024-04-30 | |||||||||||||||
タイトル | ||||||||||||||||
言語 | ja | |||||||||||||||
タイトル | 国士舘大学蔵『伊勢物語』の研究(二) | |||||||||||||||
見出し | ||||||||||||||||
大見出し | 報告 | |||||||||||||||
言語 | ||||||||||||||||
jpn | ||||||||||||||||
作成者 |
松野, 彩
× 松野, 彩
WEKO
26151
× 鈴木, 健太朗
× 二〇二三年度・中古ゼミ四年生
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キーワード | ||||||||||||||||
伊勢物語, 国士舘大学蔵本, 国士舘大学蔵伊勢物語, 写本, 翻刻 | ||||||||||||||||
関連情報 | ||||||||||||||||
関連タイプ | references | |||||||||||||||
関連名称 | 『伊勢物語』 国士舘大学蔵本 学習院大学蔵本 千歳文庫蔵本 |
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書誌情報 |
ja : 國文學論輯 en : Kokubungakuronshu 巻 45, p. 87-117, 発行日 2024-03-20 |
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出版者 | ||||||||||||||||
出版者 | 国士舘大学国文学会 | |||||||||||||||
収録物識別子 | ||||||||||||||||
収録物識別子タイプ | PISSN | |||||||||||||||
収録物識別子 | 0286-7494 | |||||||||||||||
NCID | ||||||||||||||||
収録物識別子タイプ | NCID | |||||||||||||||
収録物識別子 | AN00090339 | |||||||||||||||
注記 | ||||||||||||||||
内容記述タイプ | Other | |||||||||||||||
内容記述 | 松野彩・二〇二二年度中古ゼミ四年生「国士舘大学蔵『伊勢物語』の研究(一)」(国士舘大学国文学会編『國文學論輯』四四、二〇二三年三月) | |||||||||||||||
資源タイプ | ||||||||||||||||
資源タイプ識別子(シンプル) | http://purl.org/coar/resource_type/c_6501 | |||||||||||||||
資源タイプ(シンプル) | departmental bulletin paper | |||||||||||||||
出版タイプ | ||||||||||||||||
出版タイプ | VoR | |||||||||||||||
出版タイプResource | http://purl.org/coar/version/c_970fb48d4fbd8a85 |